空調設備により、年間を通じて温熱の病毒(ウイルス)が撒き散らされているだけでなく、秋・冬の乾期においては空調設備によってさらに室内の空気は乾燥し、湿潤・多雨の春・夏においても室内だけは空調設備によって乾燥され、これらの吸入によって常に肺系統の損傷を免れない生活環境は異常であり、多かれ少なかれ、昨今の日本国内に共通した状況であると思われる。
あらゆる疾病は、究極的には五臓六腑のアンバランスによって生じるものであるから、アンバランスの状況に応じた適切な配合方剤により、正常なバランスを回復させてやれば治癒することができる。
それゆえ、中医学は西洋医学のように部分だけを見て全体を見ない非科学的な方法とは根本的に異なっており、部分と全体をともに重視した合理的な医学・薬学であるが、全体における部分としての病変の主体がどの部位であるかという「病位」の把握は、特に重要である。
ここでちょっと専門的な話をすれば、気分熱盛の白虎湯証は陽明気分の病変ではなく、手太陰気分の病変であり、つまりは白虎湯は肺経気熱を清する主方である。
この分析は「中医病機治法学」における陳潮祖先生の卓見であり、近年日本国内で肺の病変が密かに蔓延しつつある現状に対して、示唆するところは決して少なくないはずである。
参考文献:陳潮祖著「中医病機治法学」より〔・・・〕の注記入りの拙訳でピックアップ
気分熱盛・辛寒清気
気分熱盛 = 温邪を上に受けて衛分から気分に転入し、あるいは寒邪が裏に入って化熱し、熱邪が気分にある病機を指す。
辛寒清熱 = 気分熱盛の病機にもとづいて考案された治法である。
本証では高熱・汗出・煩渇〔激しい口渇〕・洪脉が主症となることが多い。
肺は呼吸を司っているので、温疫の邪気は極めて容易に肺系に侵入して病変をもたらす。肺は皮毛に合し衛に属し表を主っているため、気候の異常変化によって容易に表衛失調を引き起こし、循経して臓に伝入し、鬱結化熱による病態を呈する。このように、温邪を上から受けても寒邪に表から侵入されても、最初に肺が被害を受けることになり、邪気が肺衛を犯した早期に治療しなければ、転化して気分熱盛を形成し得るのである。
かくして邪が気分に転入すれば、@邪が熱化するために高熱を呈し、A津は熱迫によって外越散熱するために出汗し、B汗出によって傷津し、熱盛によって耗液し、津液が損傷・消耗され、おのずと水分補給の欲求が高まるために激しい口渇を生じて冷飲する。C脉象は熱在気分〔熱邪が気分あること〕を示す洪大の脉を呈する。
「熱なるときはこれを寒す」の治療原則にもとづき、石膏・知母・竹葉・芦根などを用いて方剤を組み立て、辛寒清気法を体現した治療を行えば本証に適応する。
〈代表方剤〉 白虎湯。
気分熱盛では「傷津」を特徴とすることが多いので、本法では辛寒清熱薬を中心に用い、「辛はよく走表し、寒はよく清熱」する性質を利用して熱去津回〔熱を除いて津液を回復させる〕の目的を達する。白虎湯証に身体の重だるい痛みを伴うときは熱邪挟湿・熱盛湿微の証候であるから、白虎湯に蒼朮を加えて燥湿醒脾すべきである。
〈代表方剤〉 白虎加蒼朮湯。
熱勢が猖獗(しょうけつ)を極め、津液が虧損されて臓病及腑〔臓の病変が腑に波及〕により、腸中の燥結を誘発した場合は、芒硝・大黄などを配合した瀉下通腑を併用し、臓腑同治の法則を体現した方剤が適応する。
〈代表方剤〉 白虎承気湯(第六章「二臓同病」の肺脾同治の項を参照)。
白虎湯証とともに脉が洪大で中空、甚だしいときは虚散を呈する場合は、邪熱熾盛によって心肺の気虚を併発しているので、清気の方剤に人参の配合により益気強心して心肺機能を回復させるべきである。
〈代表方剤〉 白虎加人参湯。
熱病の後期に、熱勢は減退しても傷津が著しい場合は、沙参や麦門冬などを加えて養陰増液すべきである。
〈代表方剤〉 竹葉石膏湯。
このように、麦門冬を配合した竹葉石膏湯などは、養陰と清熱併用の配合法則を体現したものである。
衛気営血弁証においては、辛寒清気法が熱在気分を治療する基本法則であるが、実際の臨床では証候にもとづいて、
@辛涼解表法と併用して清熱透邪する銀翹白虎湯。
A清営涼血法と併用して気営両清する化斑湯(二臓同病、心肺同病の項を参照)。
B涼血熄風法と併用して気血両清する犀羚白虎湯(二臓同病、肝肺同病の項を参照)。
などの方剤を組み立てる。このような各種の治法を併用した配合の工夫により、本法の応用範囲を拡大することが可能である。
白虎湯証に対し、歴代の傷寒論の注釈家は、風寒の邪が陽明経に伝入して熱化し純熱無実〔陽明経の熱証という無形の熱邪のみで、陽明腑実という有形の実邪は形成していない〕の病態であると解釈しているが、子細に検討してみると、これは間違った解釈と思われる。筆者は以下に述べる五つの理由から、白虎湯証を肺の病変であると認識している。
(1)仲景の原書〔傷寒論〕において、白虎湯証が一番最初に見られるのは太陽病篇である。太陽病は表証を呈する外感風寒初期の総称であり、肺は気を主り外は皮毛に合して表を主るので、表証が化熱すると気分熱盛を呈するのが無理なく自然な伝変法則である。さらに、本方の名称から考えると白虎は西方の神であり、内は肺に対応している。それゆえ、白虎湯と命名された所以は、本方が肺経気熱を治療する主方であることを示すためであり、肺経の治療方剤とみなすことが仲景の考えに、より近いものと思われる。
(2)諸気はみな肺に属し、気が鬱すれば化熱する。それゆえ、気分熱盛を清する主方である白虎湯を肺経の治療方剤とみなすことは、本証の病理機序によりふさわしいものと考えられる。
(3)呉鞠通は白虎湯を《温病条弁》の上焦篇で太陰温病の治療方剤として記載し、独自の卓見によって敢えて従来の通説を覆したが、白虎湯証を肺の病変とみなすことは、このような呉氏の卓見に沿うものである。
(4)白虎湯証は呼吸器系の伝染病で多く見られることからも、本証を肺臓の病変とみなすことは臨床的な説得力を持つ。さらに、大青竜湯・小青竜加石膏湯・厚朴麻黄湯・越婢湯・越婢加半夏湯などの肺の病変を治療する諸方剤を見てみると、いずれも石膏を用いているが、胃熱の治療方剤で石膏を用いることは少ないことからも、白虎湯の作用は肺熱を清する方剤であって胃熱を清するものではないことを裏付けている。
(5)衛気営血の伝変法則から分析すると、気分の熱邪は少陽三焦をルートとして陽明に順伝して裏結するか、心営に内陥して気営両燔を呈するか、または完全に営分に伝入してしまうかのいずれかである。このように、気分熱盛の白虎湯証を肺の病変とみなせば、伝変法則が理解しやすくなる。
方剤例
〔一〕白虎湯(《傷寒論》)
【組成】 石膏一五〜六〇g 知母一〇〜二〇g 甘草六〜一〇g 粳米一〇g
【用法】 水煎服用。
【病機】 気分熱盛。
【治法】 辛寒清熱。
【適応証】
熱在気分による高熱・汗出・舌燥・煩渇引飲〔激しく口渇して飲みたがる〕・脉は洪大で有力あるいは滑数。
〔二〕白虎加桂枝湯(《金匱要略》)
【組成】 石膏一五〜六〇g 知母一〇〜二〇g 甘草六g 粳米一〇g 桂枝一〇g
【用法】 水煎服用。汗が出れば治癒する。 【病機】 気分熱盛。
【治法】 辛寒清熱・和営通絡。
【適応証】
温瘧〔内に伏邪があり、夏季に暑熱を受けて発病する瘧疾の一種〕で、脉は正常・悪寒はなく発熱・骨節煩疼〔関節部の激しい疼痛〕・時に嘔吐。
〔三〕白虎加蒼朮湯
(《活人書》)
【組成】 石膏一五〜三〇g 知母一〇〜一五g 甘草六g 粳米一〇g 蒼朮一〇〜一五g
【用法】 水煎服用。
【病機】 気分熱盛・湿微。
【治法】 清熱除湿。
【適応証】
湿温〔湿熱の邪を感受して発病する熱性病の一種〕で、憎寒壮熱〔激しい悪寒と発熱〕・口渇・全身の疼痛。
〔四〕白虎加人参湯
(《傷寒論》)
【組成】 石膏一五〜三〇g 知母一〇〜一五g 甘草六g 粳米一〇g 人参一〇g
【用法】 水煎服用。
【病機】 気分熱盛・津気両傷。
【治法】 辛寒清熱・益気生津。
【適応証】
気分熱盛により、大熱・大渇・大汗・脉は大で虚。
〔五〕銀翹白虎湯(験方)
【組成】 金銀花三〇g 連翹一五g 大青葉三〇g 板藍根三〇g 石膏三〇g 知母一五g 甘草六g
【用法】 水煎服用。
【病機】 暑温初起・熱在気分。
【治法】 清熱解毒。
【適応証】
暑温〔暑熱の邪を感受して発病する急性熱病の一種〕の初期で熱邪が気分にあり、高熱・汗出・口渇・脉は洪大で有力。
〔六〕竹葉石膏湯(《傷寒論》)
【組成】 竹葉一〇g 生石膏三〇g 半夏一二g 人参六g 麦門冬三〇g 甘草六g 粳米一〇g
【用法】 水煎服用。
【病機】 熱病後期・余熱未清。
【治法】 清熱降逆・益気生津。
【適応証】
(1)熱病の後期で余熱が残り、羸痩(るいそう)・少気〔言語に力がなく呼吸が微弱で短い息切れ状態〕・嘔気・咽の乾燥・口渇・舌質は紅・舌苔は少ない・脉は虚で数。
(2)傷暑により口渇し、脉が虚で熱があるとき。
(3)胸中がほてりイライラして眠れず、脉が虚数の場合。
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