インフルエンザに麻黄湯と決め込む日本漢方の危うさについて


参考ブログ:風邪やインフルエンザの漢方薬:漢方薬専門・村田漢方堂薬局(山口県下関市)の近況報告

2006年06月07日

暑邪傷肺の病機に対する宣肺滌暑法の考察

 いつものように一般向けに砕いた話ばかりはしておれない。
 時には、専門的に深く掘り下げた考察も投稿しておこう。殆どの人が理解できないだろうし、専門家でも中医学派でなければ理解困難な話題である。
 
 まずは、私淑する陳潮祖先生の『中医病機治法学』における「暑邪傷肺・宣肺滌暑」の項の拙訳で引用させて頂き、その後に小生の考察を少々長く付け加えたい。


暑邪傷肺・宣肺滌暑

 暑邪傷肺 = 暑熱が肺衛を侵犯した(という)病変機序を指す。
 宣肺滌暑 = 暑邪傷肺にもとづいて考案された治療法則である。
 暑は六淫の邪であり、人体を侵犯すると肺衛が真っ先に影響を受ける。肺は気を主っているので、肺が暑邪に犯されると、暑邪によって気が損傷されるか、暑湿によって気が阻遏されて、病態を呈することとなる。
 葉天士の《臨床指南》には「暑熱は必ず湿を挟む。吸気して受け、先ず上を傷る。ゆえに仲景の傷寒、先ず六経に分かつも、河間の温熱、須らく三焦を究むべし。おおよそ暑熱は気を傷り、湿著〔暑湿〕は気を阻む。肺は一身周行の気を主り、位は高く、手の太陰たり」と述べられており、暑病に関する四つの問題を提出している。
 @暑邪が侵襲する部位
 暑は「吸気して受け、先ず上を傷る」ことにより、肺系統が先ず影響を受ける。
 A暑邪の特性
 「暑は必ず湿を挟む」。
 B暑邪傷肺の病理変化
 二種類の転帰があり、一つは暑熱傷気であり、一つは湿著阻気〔暑湿阻気〕である。
 C暑病の伝変法則
 暑は熱病の範疇にあり、傷寒六経分証とは異なるもので、三焦の論治にもとづく必要がある。
 このように、暑邪は「吸気して受け、先ず上を傷る」と述べた葉氏の見解は、手太陰の病位概念であり、六淫が人体を侵犯したときの一般法則と合致する。肺は呼吸を司り、外は皮毛に合するので、六淫の邪は上から受けるかあるいは表から侵入され、いずれの場合も肺衛を直接侵犯するのである。
 暑は必ず挟湿する理由については、邵新甫氏が詳細明確に述べている。
「天の暑熱(が)一たび動けば、地の湿濁はおのずと騰る。人は蒸淫熱迫の中に在りて、正気(が)もしもあるいは隙あるが若くあれば、すなわち邪は口鼻より吸入し、気分(が)先ず阻まれ、上焦に清粛は行らず、輸化の機は常度を失し、水穀の精微はまた蘊結して湿をなすなり。人身は一小天地なり。内外は相応ず。ゆえに暑は必ず湿を挟むとは、すなわちこの義のみ」と。
 暑病は臨床上、暑熱傷気により津液が熱灼を受け、純熱無湿で「汗出で悪寒し、身熱して渇す」の白虎加人参湯証ばかりでなく、暑邪挟湿により、有形の水が皮毛を鬱遏して汗液を閉じ込め「身熱・疼重」を呈する黄連香じゅ飲証も見られる。
 葉氏自身も、本病〔暑病〕には暑熱傷気と湿著阻気の二種類の病変があると述べている。その趣旨を敷衍すれば、暑熱が傷気すると津液を損傷・消耗することが多く、肺気が痺阻されてはじめて暑湿の病変が生じるのである。それゆえ、「暑は挟湿することが多い」といえても、「暑は必ず挟湿する」と決め込むことはできない。暑病の伝変は上から下であり三焦の論治に従うべし、とされることについては、本病の伝変法則にあてはまっている。
 暑邪が太陰を侵犯すると、初期には主として頭痛・悪寒・身体が重くて疼痛がある・顔面紅潮・口渇・身体の熱感・無汗などの症候が現われる。肺が暑邪に干されると宣降機能が失調し、陽気と暑邪が結合して蘊結化熱し、湿凝気阻によって陽気が発越することができなくなり、遂には悪寒・身体の疼痛・壮熱〔高熱〕・無汗・顔面紅潮・口渇などを生じるのである。
 暑邪が太陰気分を侵犯した初期で「表寒裏熱」の証候を呈するときは、《温病条弁》の「辛温復辛涼」の治療原則にもとづき、寒温併用して清軽宣発し、熱を透達させてそう理を開くと、暑熱はおのずと解消する。それゆえ、本法では常に辛温の香じゅ・かっ香・蘇葉、辛涼の薄荷・青蒿・連翹・竹葉に、淡滲の芦根・滑石などを配合して処方する。
 〈代表方剤〉 新加香じゅ飲・加味香じゅ湯・清絡飲など。
 これらの方剤は、宣肺滌暑法を体現している。
 暑邪が上焦を侵犯した初期に、遷延させて治療が遅れたりあるいは誤治すると、個体差(体質条件)によって以下の転帰をとる。
 @陰虚火旺の体質では、邪は熱化して純熱無湿となり、気分熱盛の白虎湯証、気耗津傷の白虎加人参湯証や生脉散証、暑邪入営・営分熱盛の清営湯証、逆伝心包・蔽阻清竅の牛黄丸証や紫雪丹証などを呈し、温病の衛気営血の伝変法則をたどる。
 A陽虚湿盛の体質では、邪は湿化して暑湿混合し、上焦暑湿の天水散証、手・足太陰同病の蒼朮白虎湯証や杏仁滑石湯証を呈し、上から下に向かう三焦の伝変法則をたどる。
 方剤例
〔一〕新加香じゅ飲(《温病条弁》)
 【組成】 香〓六g 金銀花九g 鮮扁豆花九g 厚朴六g 連翹六g
 【用法】 水五杯で煎じて二杯を取り、まず一杯分を服用し、汗が出れば服用を中止する。汗が出なければ再度服用し、全部を服用しても汗が出ないときは、再び湯液を作って服用する。
 【病機】 肺受暑熱。
 【治法】 宣肺滌暑。
 【適応証】
 肺が暑熱に犯され、見かけは傷寒に似ており〔つまり悪寒があり〕、右脉は洪大・左脉はかえって小、顔面紅潮・口渇するも汗が出ないもの。
〔二〕加味香じゅ湯(経験方剤)
 【組成】 香じゅ一〇g 厚朴一二g 扁豆一〇g 青蒿二〇g 金銀花一五g 連翹一五g 滑石二〇g 甘草三g
 【用法】 水煎服用。
 【病機】 暑傷肺衛。
 【治法】 解表滌暑。
 【適応証】暑湿感冒。
〔三〕清絡飲(《温病条弁》)
 【組成】 鮮荷葉辺六g 鮮金銀花六g 西瓜翠衣六g 鮮扁豆花一〇g 絲瓜皮六g鮮竹葉心六g
 【用法】 水二杯で煎じて一杯を取り、一日二回服用。
 暑邪が肺経気分を犯した軽症のものに用いることができる。
 【病機】 暑傷肺絡。
 【治法】 辛涼清絡。(辛涼芳香法)
 【適応証】
 (1)手の太陰暑温で、発汗後に傷暑による症候はほとんど回復したが、頭が少し脹り、目がスッキリせず、余邪が残存しているもの。 (2)暑熱傷肺で、身熱や口渇は激しくないのに、頭や目がすっきりしない・昏眩〔立ちくらみや頭のふらつき〕・頭が少し脹るなど。
〔四〕黄連香じゅ飲(《活人書》)
 【組成】 香じゅ一二g 黄連(酒に漬けて炒る)三g 厚朴(生姜で製する)六g
(原方の分量は過少ゆえ、二倍量として記載)
 【用法】 水煎して熱服。
 【病機】 傷暑偏熱。
 【治法】 清熱�去暑
 【適応証】
 傷暑で、大熱〔非常に暑がる〕・煩渇〔激しい口渇〕・舌質は紅・舌苔は黄膩・脉は濡数など。


 以上が、陳潮祖先生の解説である。以下はヒゲ薬剤師による考察。

 ●滌暑法の考察

 本書の著者である陳先生と李先生、周先生による『中医方剤与治法』(四川科学技術出版社)のうち、清熱滌暑法を担当された周訓倫先生の解説、および『実用中医内科学』(上海科学技術出版社)の「暑温」の項などを基礎資料とし、私見を交えて滌暑法を考察してみたい。

 暑は陽邪で熱性が強烈であり、発病は急激で伝変も迅速である。表より裏に入り、衛気より営血に入る一般の温病の伝変過程と同様であるが、衛・気・営・血の各段階の伝変過程を明確に区別することは困難なことが多い。初期に肺衛を侵襲する順序通りの伝変とは限らず、いきなり気分から始まることが多く、あるいは突然心包に逆伝して痙厥閉脱など危篤の証候を呈する。

 暑病が温病と異なる点は、天の炎暑が地上に迫って地面の湿気を上蒸するため、暑邪は湿邪を伴って暑温挟湿の証候を形成することが多い。また、暑邪は熱性が強烈ゆえに容易に気津を損耗させるため、暑証においては気陰の損傷を伴いやすい。

 暑邪を基本病因とする場合の治法は、暑熱を滌蕩すべきであるから、金銀花・連翹・竹葉・西瓜翠衣・石膏・黄連などによって清熱滌暑法を行う。暑湿に表鬱を兼ねれば、去暑解表法により新加香じゅ飲などで治療する。暑熱が気分にあれば、清気去暑法により白虎湯などで治療する。気液虧損を兼ねれば、清暑の方剤中に人参・麦門冬などを配合して益気生津し、たとえば温熱経緯の清暑益気湯などで治療する。暑湿の証候では、清暑利湿法により六一散などで治療する。

 滌暑法を行うときには、以下の注意が必要である。
 @暑邪が強く湿邪が弱いときは、湿邪が熱化しやすいので津液の損傷をさけるため、温燥の薬物は慎重を要する。
 A湿邪が強く暑邪が弱いときは、熱邪が湿邪によって阻遏されやすいので、邪を留まらせないよう、甘寒滋膩の薬物は慎重を要する。
 次に、今回の「暑邪傷肺」に対する「宣肺滌暑法」の代表方剤、新加香じゅ飲と清絡飲を中心に検討を加える。

〔1〕新加香じゅ飲(『温病条弁』)

 【組成】 香じゅ六g 金銀花九g 連翹六g 扁豆花九g 厚朴六g
 【用法】 水煎服用し、三回に分けてまず一回分を服用し、発汗があればその後は服用せず、発汗がなければさらに服用し、発汗があるまで繰り返す。
 【主治】 上焦の暑熱が寒邪に阻遏され、悪寒発熱・無汗・頭痛・身体の疼痛・胸悶心煩〔胸苦しくいらいらする〕・顔面紅潮・口渇・小便が濃くて出渋る・舌苔は白膩・右手の脉が大。
 【分析】 暑熱の時期に納涼・冷飲してしばしば一時の快感を求めると、暑邪を寒邪が阻遏する証候を次第に形成する。暑熱を上焦に感受したうえに、納涼により外は寒邪を感受し、熱邪を寒邪が阻遏して水液が失調するために、主治で述べたようような寒熱錯雑した症候が生じるのである。
 寒邪が表を犯すと衛陽が鬱遏され、そう理が開かないため悪寒・無汗を生じ、肌そう(肌肉〔筋肉〕の紋理や間隙)に湿が滞るために頭痛や身体の疼痛を生じる。暑熱が内鬱して泄越することができないために、発熱して胸苦しい・顔面紅潮・口渇などを生じる。暑湿が内鬱して胸陽不宣となるため胸中に煩悶を生じる。上焦の熱鬱によって上源不清となれば流濁するので、小便が濃くて出渋るようになる。舌苔の白膩は、湿滞の反映である。

 以上の症候は、上焦の暑熱が寒邪に阻遏されたことが原因であり、傷寒に似ているが傷寒ではない証拠に、右手の脉が大なのである。
 【病機】 上焦の暑熱が寒邪に阻遏される。
 【治法】 清宣暑熱・温涼併用。
 【方意】 辛温性薬物は化燥助熱するので一般的な温病の治療には禁忌であるが、暑邪挾湿で、初期に寒邪が表を閉鬱する場合は、逆に辛温薬によって散寒・化湿して閉鬱を疏開し、辛温復辛涼法を行う必要がある。つまり、暑邪を寒邪が閉鬱する発病初期では、辛によって疏散し、涼によって清熱する必要があるので、辛涼性の金銀花・扁豆花・連翹によって清熱去暑し、辛温性の香じゅによって表寒の疏散と同時に金銀花・連翹を助けて上焦の鬱熱を宣達する。裏湿の停滞には苦温芳化(苦温芳香性薬物により化湿すること)を必要とするので、芳香性の香じゅで湿濁を化し、さらに苦温性の厚朴を配合して理気燥湿する。湿は陰邪であり、温薬でなければ化すことはできないので、香じゅ・厚朴の温性が適応する。以上の諸薬により、寒温併用の方剤となる。
 【応用】
 (1)弁証ポイントは以下の三点である。
 @夏季に発病し、過度な納涼・冷飲が誘因となる。
 A暑熱(暑邪)が表寒に阻遏され,発熱・煩悶・顔面紅潮・口渇など暑熱による症候とともに、悪寒・無汗などの寒邪外束による症候を伴う。
 B表裏ともに湿邪が併存し、身体が重く舌苔は膩である。
 (2)扁豆花がなければ扁豆皮を用いてもよい。暑熱が強いときには青蒿・滑石を加えるか、方剤例〔四〕の「黄連香じゅ飲」を使用する。湿邪が強いときは新加香じゅ飲にかっ香・芦根を加える。
 (3)新加香じゅ飲と黄連香じゅ飲の区別は、外寒と暑邪が同程度が前者で、後者は裏の暑湿が比較的強い場合に適応する。
 (4)訳者の村田は、エキス剤で代用するときには、「かっ香正気散合銀翹散製剤」で対応しており、夏季の感冒の常用方剤として繁用している。

〔三〕清絡飲(『温病条弁』)

 【組成】 鮮荷葉辺六g 鮮金銀花六g 西瓜翠衣六g 鮮扁豆花六g 絲瓜皮六g 鮮竹葉心六g
 【用法】 水煎服用。
 【主治】 暑熱の軽症、あるいは暑温で発汗後に余邪が残り、身体の熱感・軽度の口渇・頭や目がすっきりしない・軽度に頭が脹って
ふらつく・舌質は紅・舌苔は少ない。
        きょうぞう
 【分析】 肺は嬌臓(ひ弱な臓器)ゆえに、最も邪を受けやすい。暑邪を感受した場合、重症であれば高熱・顔面紅潮・汗が出る・激しい口渇などを生じるので、白虎湯や白虎加人参湯などの重剤を用いて清熱滌暑する必要があるが、軽症の場合は本方証のように熱邪が肺絡にあるのみであり、あるいは発汗後に余邪が残って肺絡に鬱滞する程度のものであるから、出現する症候は、暑熱の鬱蒸により、身体の熱感・軽度の口渇・頭目の昏脹などを生じるのである。
 【病機】 暑傷肺絡。
 【治法】 清熱滌暑。
 【方意】 『温病条弁』に「既に余邪と曰うは,重剤を持ちう可からざること明らかなり。ただ、芳香軽剤を以て肺絡中の余邪を清すれば足る」とあるように、本方証では暑熱を軽清宣泄する程度にとどめ、過度な薬物投与によっていたずらに正気を損傷すべきではない。それゆえ、本方では辛涼芳香の薬物の軽揚辛散作用により、肺絡中の暑熱を清解するのである。
 西瓜翠衣は甘涼清熱・生津利尿し、生津しても湿滞のおそれがなく、利尿しても正気を損傷しない。鮮金銀花・扁豆花・竹葉心の辛涼・清熱・淡滲により、西瓜翠衣の滌暑の作用を増強する。荷葉にはすかすがしい香気があり、暑熱を清するだけでなく、化湿・昇清(清陽を昇発〔のぼらせる〕)の効能がある。佐薬の絲瓜皮は、肺絡の熱邪を清する。
 以上の諸薬により、消暑解熱すれば諸症はおのずと癒える。
 【応用】
 (1)本方の薬力は穏和で軽度に清熱するので、暑熱の軽症および暑病の発汗後で余邪が残り、身体の熱感・軽度の口渇・頭目がすっきりしない・軽度の咳嗽などの症候に適応する。
 (2)暑熱傷肺により、乾燥性の咳嗽で喀痰がなく、咳嗽時に金属音のような清んだ高音を発するものにも使え、知母・麦門冬・甜杏仁・桔梗・甘草などを加味して清潤宣肺するとよい。

 エキス剤で対処するときには適量の銀翹散製剤に、かっ香正気散や滑石茯苓湯(猪苓湯)などの配合を考えれば十分に対処できると愚考している。

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posted by ヒゲジジイ at 23:47| 山口 | 風邪・インフルエンザに対する漢方薬 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする