当時から一般の人でも敏感な人は、風邪に葛根湯という常識はまったくアテにならないことに気がついていたのだ。
風邪に参蘇飲・銀翹散
暖房設備や食生活など、生活環境の変化にともなって、日本国民の体質傾向が異なって来るのは当然とはいえ、数年前まではアトピー性皮膚炎に対して、ほとんど必要性を認めなかった補中益気湯類が、今や本州末端のわが薬局でも繁用方剤となっている現状は、政治経済の急速な変化と呼応しているようです。これと同様なことが、最もありふれた疾患「風邪」においても見られるようで、
@「風邪を引くといつも病院では葛根湯や麻黄湯とか、小柴胡湯なども一緒に下さるのですが、一向にスッキリと治ったためしがありません。」
A「風邪薬を求めて薬局に行くと、昨年まではどこの店でも大抵、葛根湯を出されていましたが、不思議なことに、今年からは一般の新薬類しかすすめられなくなりました。確かに葛根湯よりも、普通の風邪薬の方がマシみたいでした。」
B「風邪を引いて以後、一ヶ月も病院に通っているのですが、一向に微熱がとれず、寒くて元気が出ず、咳も続いています。」
C「風邪を引いて一ヶ月、病院の薬も一般の薬局の薬も、何を飲んでも激しい咳き込みが止まりません。」
以上は、風邪の漢方薬を求めて来局される場合の代表的な四例ですが、Bは柴胡桂枝乾姜湯、Cは麦門冬湯など、風邪の後期の症状として対処できます。
問題は@Aのように、風邪の初期段階の治療に、葛根湯が無効な事例が増えていることで、昨今は気虚感冒の参蘇飲や、外感風熱の銀翹散の適応例が圧倒的に増加しているようです。流感などでは、参蘇飲合銀翹散が適応する症例も増えているようです。
水様性鼻汁の分泌が甚だしいアレルギー性鼻炎にしても、小青竜湯証であることは少なく、参蘇飲が適応する症例が増加しているようです。一般薬局や病院から辛温発散作用の強烈な小青竜湯が出され、過度な連用によって辛夷清肺湯証を誘発しているケースが多々見られます。
つまり、アトピー性皮膚炎のみならず一般の風邪においても、昨今は肺・脾の虚が内在しているケースが急速に増加しており、このために邪実に対する配慮ばかりでなく、正虚に対する十分な配慮を必要とする脆弱・華奢な時代を迎えているに違いなく、サッカーのW杯アジア最終予選の悲劇と、まんざら無縁ではなさそうです。
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