異なるところがあるとすれば、昨今では葛根湯を使用する機会が激減しており、使用する場合も明らかに項背部が凝って悪寒が強い場合の一日限りで中止してもらうことが多い。(ただし、風邪には使用することは激減していても、頚椎関連や眼精疲労などには頻繁に応用できるのが葛根湯系列の方剤である。)
●流行性感冒に対する経験
冬期の流行性感冒に対しては、たとえ初期症状が傷寒に見える場合でも、温病理論にもとづく外感風熱に対処する治療方法を参考にしなければ治療困難な場合が多い。つまり、流感に対しては葛根湯や麻黄湯・大青竜湯などでは治療が困難で、西洋医学的な発想から銀翹散などのように強力な抗箘・抗ウイルス作用のある方剤を必要とすることが多いと考えている。
たとえば、今年の流感では一般の西洋医学治療では略治するまでに一週間はかかった者が多く、そのために例年になく漢方を求める流感患者が多かった訳であるが、参蘇飲合銀翹散により数日で略治したものが八割以上を占め、そのほかは葛根湯合銀翹散などで短期間で略治したのである。
筆者が扱った今年の流感患者を分析すると、気虚体質の者や一時的に気虚に陥った者が、皮毛より寒邪を感受して気虚感冒に罹患するのと同時に、口鼻からは温熱の病毒である流感ウイルスを吸入して発病し、悪寒発熱・頭痛・咳嗽・咽痛を生じ、体温も比較的高熱を示したものと考えられる。それゆえ、気虚感冒に対する参蘇飲と抗ウイルス作用の強力な銀翹散の合方にて良効が得られたものと解釈している。
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