
年明けそうそうから一薬局でのややイヤミな統計を提出して申し訳ないが、医療用漢方でしばしば風邪やインフルエンザで受診した折に処方される葛根湯の効果についての長期の統計から、ほとんど無効であったとの結論が出ている。
結論から先に言えば、ぞくぞくと寒気がして風邪かなと思って直ぐに受診する患者さんは少なく、市販の風邪薬などで自己治療を行うか、大したことはないだろうと放置して、気がつくと本格的に引き込んでしまっている。
そうなって初めて病院で受診するというケースが大半であるから、初期の悪寒がする時期の終わりかけが、次の段階に移行している状況のために、既に葛根湯証が過ぎている。つまり、葛根湯が一番有効な時期を逃しているということであろう。
葛根湯が適応するのは、風邪の引きはじめに寒気がして首の真裏の項背部分が凝っている状況である。
この「風邪の引き始め」で「寒気がする」「項背部をもむと気持ちいい」「無汗」という条件が揃っていなければ、風邪に対してはほとんど無効である。
だから、病院でもらった葛根湯は無効のまま、次に風邪引きの初期に前回効かなかった葛根湯を取り出して服用してみたら今度は意外に効きました、ということも結構多いようである。
結論として、病院で受診する頃の風邪は、すでに葛根湯の適応を過ぎており、その段階で使用してもほとんど無効ばかりか、ときによってはやたらに温めて発汗作用ばかりを発揮して、発汗過多による体力消耗を来たす場合すらあり得る。
その次が大変重要で、病院を受診する頃には、多くは温病に移行している段階か、あるいは過渡期であったりするから、銀翹散系列の方剤が適応することが多いと思われる。
ところが、中医学ではもっぱら常識的なこの銀翹散製剤は、日本の医療用には無い方剤である。
多くの漢方専門薬局で売られている銀翹散製剤は、風邪・インフルエンザの流行する冬季を迎えて大活躍することになる。
漢方において、臨床の現実に即して考えた場合、杓子定規に「傷寒」だの「温病」だのと歴然と区別すること自体に疑問を呈してもよいかもしれない。
上海科学技術出版社から万友生著「寒温統一論」(1988年発行)という書籍もあるくらいである。
このような内容のブログを「漢方と漢方薬は風邪・流感に本当に有効か?」などというタイトルで連載中ですが、その他にも多数のブログ類で老後の道楽としている昨今です。
本年もどうぞ、宜しくお願い申し上げます。
本ブログで常々述べてきたことの一部を要約した内容となっている。
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