インフルエンザに麻黄湯と決め込む日本漢方の危うさについて


参考ブログ:風邪やインフルエンザの漢方薬:漢方薬専門・村田漢方堂薬局(山口県下関市)の近況報告

2006年06月20日

冷房による頭痛に「かっこう正気散」

  とうとうエアコンによる冷房が欠かせない季節になってしまった。
 高齢の常連さんの中で、数年に一度は奇妙な頭痛を訴えて、さては脳卒中の前兆かと恐れおののかれる女性がおられるが、何のことはない、職業上、和服を着て正座し、長時間冷房のよく効いた室内に滞在することが多いので、冷房による血行障害から頭痛を来たすのである。

 このような時に欠かせない方剤が、かっこう正気散(かっこうしょうきさん)なのである。

 というのは何も「夏風邪」ということに拘る必要はなく、つまり特別に夏風邪を引いたという自覚がなくとも、冷房による様々な症状に欠かせないのが、このかっこう正気散なのですよ、ということなんですよ。

 また当然のことながらシツコイ夏風邪を引いた時などには、本方剤を中心に考えるべき時がとても多く、さらには猪苓湯を加えるべきときも多いので、特に留意すべきだ。
 これについてのお勉強には、差し当たりは
漢方薬:かっこうしょうきさん合猪苓湯の応用に書いている。


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2006年06月16日

黄連蘇葉湯証の病機(肺胃不和に対する宣通肺胃法の代表的方剤)

   ●黄連蘇葉湯証の病機

 黄連蘇葉湯は、黄連と蘇葉の僅か二味で構成される漢方処方である。それだけに、とても興味深く、大いに研究応用する価値の高い方剤である。 

 王孟英編著《温熱経緯・薛生白湿熱病篇》の、
 
十七、湿熱証にて、嘔悪止まず、昼夜差(い)えず死せんと欲するは、肺胃和せず、胃熱は肺に移り、肺は邪を受けざるなり、宜しく川連四分、蘇葉二三分を用うべし、両味の煎湯、呷下すれば即ち止む。
 【自注】 肺胃和せざれば、最も嘔を致し易し。けだし胃熱は肺に移り、肺は邪を受けず、環りて胃に帰す。必ず川連を用いてもって湿熱を清し、蘇葉をもって肺胃を通ず。これを投じて立ちどころに癒ゆるは、肺胃の気は蘇葉にあらざれば通ずるあたわざるをもってなり。分数の軽きは、軽剤をもって恰も上焦の病を治するのみ。

 これに対して医歯薬出版社発行の『温病学』では、
 
本条は、肺胃不和による嘔悪不止の治療を述べている。
 肺胃の気は下降するのが順であり、相互に助けあっている。湿熱の邪が胃を犯すと、胃気が上逆して肺を上犯するが、肺気が正常である場合には肺が邪を受けず、邪が肺気の粛降によって胃に帰り、胃気をさらに上逆させるために、胃気上逆が甚だしくなって昼夜にわたって悪心・嘔吐が続く。これが肺胃不和である。
 黄連・蘇葉ともに止嘔の効能をもち、黄連で胃の湿熱を清し、蘇葉で肺気を開宣し、邪を表外に達させて、胃に帰さない。薬量が非常に少ないのは、軽剤により上焦に薬効を及ぼすためである。

 とて、原書の王孟英編纂《温熱経緯・薛生白湿熱病篇》の条文・自注の要約と解釈を行っており、とても理解しやすい説明である。
 ところで、このような原書に沿った解釈に対しては異論もあり、とりわけ人民衛生出版社発行の『温病学』における「解析」は、かなり参考価値が高いと思われるので次に紹介する。
 
本条は、湿熱の余邪が胃に残存して悪心・嘔吐を生じたときの証治を検討したものである。
(一)症候と病機
 嘔悪不止が主症である。湿熱病で湿熱の余邪が胃を犯し、胃失和降を生じて気が上逆したために、嘔悪不止となったものである。原文中の「昼夜差えず、死せんと欲っす」とあるのは、悪心・嘔吐の激しさを形容したまでのことで、決して危篤な状況を意味しているわけではない。実際には胃における余邪の残存による症状にすぎず、病勢・病位は比較的軽くて浅い。
 薛生白氏の述べる「肺胃和せず、胃熱は肺に移り、肺は邪を受けず」にもとづいて本証の病機を解釈するのは、適切でないように思われる。悪心・嘔吐を生じる病変機序は主として胃気上逆であり、肺との関連は少ないので、敢えて肺を関連させて解釈する必要はない。
(二)本証に対する治療用薬
 本証は湿熱の余邪が胃に残留したために胃気が上逆して生じたものであるから、清熱燥湿の川黄連で胃火を清熱降火し、蘇葉で通降順気(通順降気)するのである。わずか二味で薬用量も極めて少量であるが、適切な配合であるから、病邪が強烈でない限りは優れた効果が得られる。
 薛生白氏による【自注】に「軽剤をもって恰も上焦の病を治す」とあるのは、本証の病位が比較的上部であるので、軽剤を用いるべきことを説明したものである。しかしながら、本証の病変が上焦にあるものと限定するのであれば妥当性を欠く結論であり、実際には胃気上逆による中焦の病変なのである。

 なお、王孟英氏は本方を妊娠悪阻に用いているが、胎火上逆や胆熱胃火上逆による嘔吐にも適応するからである。また、いうまでもないことかもしれないが、寒飲中停や脾胃虚弱などによる悪心・嘔吐には適応しないので、その点には注意が必要である。
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2006年06月14日

肺系統の病機と治法のヒント

 風邪やインフルエンザは上気道の炎症性疾患として肺系統とは密接な関係があるので、中医学における肺系統の病機と治法のヒントを少々記載しておこう。漢方薬は漢方医学に中医学理論を導入した中医漢方薬学より)
    
●肺系統の病機と治法のヒント

 中医学における肺系統は、肺葉(肺臓)・肺系・肺経およびこれらに合する皮毛・大腸などの五つの部分から構成される。

 (一)肺は気を主り、宣発と粛降の働きがあり、呼吸を司り、水道を通調するので、肺に病変が生じると、気液の宣降失調が基本病理となり、呼吸障害・咳嗽・喀痰などが主症状である。

 (二)肺は嬌臓(デリケートな臓器)であり、呼吸を司り、皮毛に合しているので、外邪の侵襲を最も受けやすく、寒熱燥湿いずれの刺激に対しても容易に影響を受けやすい。感冒や鼻炎など、肺系統の疾患が日常的によくみられるのはこのためである。

 (三)肺の宣降機能は、他の臓腑の気機と協調したり制約を加えたりする作用を持ち、心を補佐して営血の運行を推動するなど、肺臓特有の他臓との有機的な関連性の特長を把握した上で、それぞれの病機と治法を修得し、実際の臨床に応用しなければならない。

posted by ヒゲジジイ at 20:52| 山口 ☁| お茶でもどうぞ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月11日

秋燥病の特徴と鑑別

 ちょっと専門的になるとやっぱりクリック数が激減しましたね失恋
 それじゃ〜〜、どこまでクリック数が落ちるか、今回も専門的な「秋燥病」つまり燥邪傷肺の病機(病理気序)を中心に、やってみよう〜〜〜exclamation

  燥邪傷肺は、主に秋季に発病することから「秋燥」と呼ばれ、西洋医学的には一般の感冒やインフルエンザ・急性気管支炎などが含まれる。
 秋燥は温燥と涼燥の二種類がある。

 燥邪は口鼻から侵入して、まず上焦の肺経を犯すので、秋燥の初期症状は邪気が肺衛を侵犯したときの一般的な外感表証のほか、必ず口・鼻・唇・咽の乾燥および乾性の咳嗽などの肺系の津液乾燥の症状を伴う。燥邪はもともと津液を消耗させる性質があるので、化火するとさらに陰液を灼傷し、甚だしいときは血絡も損傷する。
 つまり、初期に速やかな清解を行わなければ肺燥化火を引き起こして肺陰を消耗し肺絡を灼傷して出血を生じるのである。後期には燥熱が消退しても肺陰損耗が直ぐには回復できずに肺燥による乾性の咳嗽が残り、肺と大腸の表裏の関係から、肺燥によって大便が乾燥して秘結を伴いやすい。

 このように、秋燥病は上焦肺経の病変が主であり、治療が適切であれば内伝することなく治癒に向かう。

 秋燥病の基本的な特徴は、発熱悪寒・頭痛・少汗・鼻や咽の乾燥・乾性の咳嗽・無痰かあるいは少痰・舌苔は薄白で乾燥傾向・脉は浮などである。
 「温燥」に限定していえば、発熱が重くて悪寒は軽い・口内が乾燥・口渇・咽部の乾燥あるいは疼痛・乾性の咳嗽・無痰・舌の辺縁と尖が紅・脉は浮数などの特徴がある。

 「涼燥」の場合では、悪寒が顕著で発熱は軽い・口内や鼻が乾燥するが口渇はない・咳嗽・少痰・舌質は正常・脉は数ではないなどの特徴がある。
 本証は年齢・性別に関係なく秋季に多発し、一般に症状は軽く、逆伝したり遷延することも比較的少ない。(涼燥というのは実際にはほとんど風寒感冒にとても近い親戚である。)
 なお、涼燥に罹患した場合でも、体質が熱証傾向にあるものでは、熱化して温燥に変化しやすい。
 秋燥病は、風温や風寒感冒との鑑別が必要である。

 (一)風温
 風温は、風熱が肺衛を侵襲して発病し、出現する症候は秋燥病の温燥と類似しているが、温燥では発病の初期には肺衛の症候のほか、必ず口・鼻・唇・咽の乾燥と乾性の咳嗽・無痰など肺燥による症状を伴い、疾病の経過中には肺燥傷陰によって肺絡が損傷されやすいが、心営に逆伝することは少ない。温燥は一般的には風温よりも病状が軽く、発病時期も秋に限られる。風温の初期は熱証が比較的重いが、一般的には清竅の乾燥や乾性の咳嗽など肺燥の症状はそれほど認められない。風温の疾病過程では痰熱阻肺や逆伝心営を生じやすく、発病時期も四季を通じて発病するが、冬と春に多発する傾向がある。

 (二)風寒感冒
 風寒感冒は四季を通じて発病する。初期には風寒が束表して肺衛が宣発できなくなり、臨床症状は涼燥に類似しているが、涼燥の初期では必ず唇の乾燥・鼻の乾燥・咽の乾燥などの清竅の乾燥症状を伴い、発病時期も秋に限られる。

 以上は『実用中医内科学』(上海科学技術出版社発行)の秋燥の項にもとづいて検討・補足したものであるが、昨今の日本の生活環境では、冬季においてもエアコンや電気ストーブ・石油ストーブなどの使用により、あるいは昨今流行の温め療法とやらによって年間を通じて燥邪傷肺の症候が観察される。
 それゆえ、秋季のみならず限定的な四季を問わずに一年間を通じて、一般の外感疾患の治療に「宣肺潤燥法」を組み入れる配慮が必要なこともある。


 このことが言いたかったために、「秋燥病」をダシに延々とここまで考察してきたのだった。ひらめき


 クリック数がイヨイヨ落ち込むことだろうモバQ
posted by ヒゲジジイ at 16:35| 山口 | 風邪・インフルエンザに対する漢方薬 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月07日

暑邪傷肺の病機に対する宣肺滌暑法の考察

 いつものように一般向けに砕いた話ばかりはしておれない。
 時には、専門的に深く掘り下げた考察も投稿しておこう。殆どの人が理解できないだろうし、専門家でも中医学派でなければ理解困難な話題である。
 
 まずは、私淑する陳潮祖先生の『中医病機治法学』における「暑邪傷肺・宣肺滌暑」の項の拙訳で引用させて頂き、その後に小生の考察を少々長く付け加えたい。


暑邪傷肺・宣肺滌暑

 暑邪傷肺 = 暑熱が肺衛を侵犯した(という)病変機序を指す。
 宣肺滌暑 = 暑邪傷肺にもとづいて考案された治療法則である。
 暑は六淫の邪であり、人体を侵犯すると肺衛が真っ先に影響を受ける。肺は気を主っているので、肺が暑邪に犯されると、暑邪によって気が損傷されるか、暑湿によって気が阻遏されて、病態を呈することとなる。
 葉天士の《臨床指南》には「暑熱は必ず湿を挟む。吸気して受け、先ず上を傷る。ゆえに仲景の傷寒、先ず六経に分かつも、河間の温熱、須らく三焦を究むべし。おおよそ暑熱は気を傷り、湿著〔暑湿〕は気を阻む。肺は一身周行の気を主り、位は高く、手の太陰たり」と述べられており、暑病に関する四つの問題を提出している。
 @暑邪が侵襲する部位
 暑は「吸気して受け、先ず上を傷る」ことにより、肺系統が先ず影響を受ける。
 A暑邪の特性
 「暑は必ず湿を挟む」。
 B暑邪傷肺の病理変化
 二種類の転帰があり、一つは暑熱傷気であり、一つは湿著阻気〔暑湿阻気〕である。
 C暑病の伝変法則
 暑は熱病の範疇にあり、傷寒六経分証とは異なるもので、三焦の論治にもとづく必要がある。
 このように、暑邪は「吸気して受け、先ず上を傷る」と述べた葉氏の見解は、手太陰の病位概念であり、六淫が人体を侵犯したときの一般法則と合致する。肺は呼吸を司り、外は皮毛に合するので、六淫の邪は上から受けるかあるいは表から侵入され、いずれの場合も肺衛を直接侵犯するのである。
 暑は必ず挟湿する理由については、邵新甫氏が詳細明確に述べている。
「天の暑熱(が)一たび動けば、地の湿濁はおのずと騰る。人は蒸淫熱迫の中に在りて、正気(が)もしもあるいは隙あるが若くあれば、すなわち邪は口鼻より吸入し、気分(が)先ず阻まれ、上焦に清粛は行らず、輸化の機は常度を失し、水穀の精微はまた蘊結して湿をなすなり。人身は一小天地なり。内外は相応ず。ゆえに暑は必ず湿を挟むとは、すなわちこの義のみ」と。
 暑病は臨床上、暑熱傷気により津液が熱灼を受け、純熱無湿で「汗出で悪寒し、身熱して渇す」の白虎加人参湯証ばかりでなく、暑邪挟湿により、有形の水が皮毛を鬱遏して汗液を閉じ込め「身熱・疼重」を呈する黄連香じゅ飲証も見られる。
 葉氏自身も、本病〔暑病〕には暑熱傷気と湿著阻気の二種類の病変があると述べている。その趣旨を敷衍すれば、暑熱が傷気すると津液を損傷・消耗することが多く、肺気が痺阻されてはじめて暑湿の病変が生じるのである。それゆえ、「暑は挟湿することが多い」といえても、「暑は必ず挟湿する」と決め込むことはできない。暑病の伝変は上から下であり三焦の論治に従うべし、とされることについては、本病の伝変法則にあてはまっている。
 暑邪が太陰を侵犯すると、初期には主として頭痛・悪寒・身体が重くて疼痛がある・顔面紅潮・口渇・身体の熱感・無汗などの症候が現われる。肺が暑邪に干されると宣降機能が失調し、陽気と暑邪が結合して蘊結化熱し、湿凝気阻によって陽気が発越することができなくなり、遂には悪寒・身体の疼痛・壮熱〔高熱〕・無汗・顔面紅潮・口渇などを生じるのである。
 暑邪が太陰気分を侵犯した初期で「表寒裏熱」の証候を呈するときは、《温病条弁》の「辛温復辛涼」の治療原則にもとづき、寒温併用して清軽宣発し、熱を透達させてそう理を開くと、暑熱はおのずと解消する。それゆえ、本法では常に辛温の香じゅ・かっ香・蘇葉、辛涼の薄荷・青蒿・連翹・竹葉に、淡滲の芦根・滑石などを配合して処方する。
 〈代表方剤〉 新加香じゅ飲・加味香じゅ湯・清絡飲など。
 これらの方剤は、宣肺滌暑法を体現している。
 暑邪が上焦を侵犯した初期に、遷延させて治療が遅れたりあるいは誤治すると、個体差(体質条件)によって以下の転帰をとる。
 @陰虚火旺の体質では、邪は熱化して純熱無湿となり、気分熱盛の白虎湯証、気耗津傷の白虎加人参湯証や生脉散証、暑邪入営・営分熱盛の清営湯証、逆伝心包・蔽阻清竅の牛黄丸証や紫雪丹証などを呈し、温病の衛気営血の伝変法則をたどる。
 A陽虚湿盛の体質では、邪は湿化して暑湿混合し、上焦暑湿の天水散証、手・足太陰同病の蒼朮白虎湯証や杏仁滑石湯証を呈し、上から下に向かう三焦の伝変法則をたどる。
 方剤例
〔一〕新加香じゅ飲(《温病条弁》)
 【組成】 香〓六g 金銀花九g 鮮扁豆花九g 厚朴六g 連翹六g
 【用法】 水五杯で煎じて二杯を取り、まず一杯分を服用し、汗が出れば服用を中止する。汗が出なければ再度服用し、全部を服用しても汗が出ないときは、再び湯液を作って服用する。
 【病機】 肺受暑熱。
 【治法】 宣肺滌暑。
 【適応証】
 肺が暑熱に犯され、見かけは傷寒に似ており〔つまり悪寒があり〕、右脉は洪大・左脉はかえって小、顔面紅潮・口渇するも汗が出ないもの。
〔二〕加味香じゅ湯(経験方剤)
 【組成】 香じゅ一〇g 厚朴一二g 扁豆一〇g 青蒿二〇g 金銀花一五g 連翹一五g 滑石二〇g 甘草三g
 【用法】 水煎服用。
 【病機】 暑傷肺衛。
 【治法】 解表滌暑。
 【適応証】暑湿感冒。
〔三〕清絡飲(《温病条弁》)
 【組成】 鮮荷葉辺六g 鮮金銀花六g 西瓜翠衣六g 鮮扁豆花一〇g 絲瓜皮六g鮮竹葉心六g
 【用法】 水二杯で煎じて一杯を取り、一日二回服用。
 暑邪が肺経気分を犯した軽症のものに用いることができる。
 【病機】 暑傷肺絡。
 【治法】 辛涼清絡。(辛涼芳香法)
 【適応証】
 (1)手の太陰暑温で、発汗後に傷暑による症候はほとんど回復したが、頭が少し脹り、目がスッキリせず、余邪が残存しているもの。 (2)暑熱傷肺で、身熱や口渇は激しくないのに、頭や目がすっきりしない・昏眩〔立ちくらみや頭のふらつき〕・頭が少し脹るなど。
〔四〕黄連香じゅ飲(《活人書》)
 【組成】 香じゅ一二g 黄連(酒に漬けて炒る)三g 厚朴(生姜で製する)六g
(原方の分量は過少ゆえ、二倍量として記載)
 【用法】 水煎して熱服。
 【病機】 傷暑偏熱。
 【治法】 清熱�去暑
 【適応証】
 傷暑で、大熱〔非常に暑がる〕・煩渇〔激しい口渇〕・舌質は紅・舌苔は黄膩・脉は濡数など。


 以上が、陳潮祖先生の解説である。以下はヒゲ薬剤師による考察。

 ●滌暑法の考察

 本書の著者である陳先生と李先生、周先生による『中医方剤与治法』(四川科学技術出版社)のうち、清熱滌暑法を担当された周訓倫先生の解説、および『実用中医内科学』(上海科学技術出版社)の「暑温」の項などを基礎資料とし、私見を交えて滌暑法を考察してみたい。

 暑は陽邪で熱性が強烈であり、発病は急激で伝変も迅速である。表より裏に入り、衛気より営血に入る一般の温病の伝変過程と同様であるが、衛・気・営・血の各段階の伝変過程を明確に区別することは困難なことが多い。初期に肺衛を侵襲する順序通りの伝変とは限らず、いきなり気分から始まることが多く、あるいは突然心包に逆伝して痙厥閉脱など危篤の証候を呈する。

 暑病が温病と異なる点は、天の炎暑が地上に迫って地面の湿気を上蒸するため、暑邪は湿邪を伴って暑温挟湿の証候を形成することが多い。また、暑邪は熱性が強烈ゆえに容易に気津を損耗させるため、暑証においては気陰の損傷を伴いやすい。

 暑邪を基本病因とする場合の治法は、暑熱を滌蕩すべきであるから、金銀花・連翹・竹葉・西瓜翠衣・石膏・黄連などによって清熱滌暑法を行う。暑湿に表鬱を兼ねれば、去暑解表法により新加香じゅ飲などで治療する。暑熱が気分にあれば、清気去暑法により白虎湯などで治療する。気液虧損を兼ねれば、清暑の方剤中に人参・麦門冬などを配合して益気生津し、たとえば温熱経緯の清暑益気湯などで治療する。暑湿の証候では、清暑利湿法により六一散などで治療する。

 滌暑法を行うときには、以下の注意が必要である。
 @暑邪が強く湿邪が弱いときは、湿邪が熱化しやすいので津液の損傷をさけるため、温燥の薬物は慎重を要する。
 A湿邪が強く暑邪が弱いときは、熱邪が湿邪によって阻遏されやすいので、邪を留まらせないよう、甘寒滋膩の薬物は慎重を要する。
 次に、今回の「暑邪傷肺」に対する「宣肺滌暑法」の代表方剤、新加香じゅ飲と清絡飲を中心に検討を加える。

〔1〕新加香じゅ飲(『温病条弁』)

 【組成】 香じゅ六g 金銀花九g 連翹六g 扁豆花九g 厚朴六g
 【用法】 水煎服用し、三回に分けてまず一回分を服用し、発汗があればその後は服用せず、発汗がなければさらに服用し、発汗があるまで繰り返す。
 【主治】 上焦の暑熱が寒邪に阻遏され、悪寒発熱・無汗・頭痛・身体の疼痛・胸悶心煩〔胸苦しくいらいらする〕・顔面紅潮・口渇・小便が濃くて出渋る・舌苔は白膩・右手の脉が大。
 【分析】 暑熱の時期に納涼・冷飲してしばしば一時の快感を求めると、暑邪を寒邪が阻遏する証候を次第に形成する。暑熱を上焦に感受したうえに、納涼により外は寒邪を感受し、熱邪を寒邪が阻遏して水液が失調するために、主治で述べたようような寒熱錯雑した症候が生じるのである。
 寒邪が表を犯すと衛陽が鬱遏され、そう理が開かないため悪寒・無汗を生じ、肌そう(肌肉〔筋肉〕の紋理や間隙)に湿が滞るために頭痛や身体の疼痛を生じる。暑熱が内鬱して泄越することができないために、発熱して胸苦しい・顔面紅潮・口渇などを生じる。暑湿が内鬱して胸陽不宣となるため胸中に煩悶を生じる。上焦の熱鬱によって上源不清となれば流濁するので、小便が濃くて出渋るようになる。舌苔の白膩は、湿滞の反映である。

 以上の症候は、上焦の暑熱が寒邪に阻遏されたことが原因であり、傷寒に似ているが傷寒ではない証拠に、右手の脉が大なのである。
 【病機】 上焦の暑熱が寒邪に阻遏される。
 【治法】 清宣暑熱・温涼併用。
 【方意】 辛温性薬物は化燥助熱するので一般的な温病の治療には禁忌であるが、暑邪挾湿で、初期に寒邪が表を閉鬱する場合は、逆に辛温薬によって散寒・化湿して閉鬱を疏開し、辛温復辛涼法を行う必要がある。つまり、暑邪を寒邪が閉鬱する発病初期では、辛によって疏散し、涼によって清熱する必要があるので、辛涼性の金銀花・扁豆花・連翹によって清熱去暑し、辛温性の香じゅによって表寒の疏散と同時に金銀花・連翹を助けて上焦の鬱熱を宣達する。裏湿の停滞には苦温芳化(苦温芳香性薬物により化湿すること)を必要とするので、芳香性の香じゅで湿濁を化し、さらに苦温性の厚朴を配合して理気燥湿する。湿は陰邪であり、温薬でなければ化すことはできないので、香じゅ・厚朴の温性が適応する。以上の諸薬により、寒温併用の方剤となる。
 【応用】
 (1)弁証ポイントは以下の三点である。
 @夏季に発病し、過度な納涼・冷飲が誘因となる。
 A暑熱(暑邪)が表寒に阻遏され,発熱・煩悶・顔面紅潮・口渇など暑熱による症候とともに、悪寒・無汗などの寒邪外束による症候を伴う。
 B表裏ともに湿邪が併存し、身体が重く舌苔は膩である。
 (2)扁豆花がなければ扁豆皮を用いてもよい。暑熱が強いときには青蒿・滑石を加えるか、方剤例〔四〕の「黄連香じゅ飲」を使用する。湿邪が強いときは新加香じゅ飲にかっ香・芦根を加える。
 (3)新加香じゅ飲と黄連香じゅ飲の区別は、外寒と暑邪が同程度が前者で、後者は裏の暑湿が比較的強い場合に適応する。
 (4)訳者の村田は、エキス剤で代用するときには、「かっ香正気散合銀翹散製剤」で対応しており、夏季の感冒の常用方剤として繁用している。

〔三〕清絡飲(『温病条弁』)

 【組成】 鮮荷葉辺六g 鮮金銀花六g 西瓜翠衣六g 鮮扁豆花六g 絲瓜皮六g 鮮竹葉心六g
 【用法】 水煎服用。
 【主治】 暑熱の軽症、あるいは暑温で発汗後に余邪が残り、身体の熱感・軽度の口渇・頭や目がすっきりしない・軽度に頭が脹って
ふらつく・舌質は紅・舌苔は少ない。
        きょうぞう
 【分析】 肺は嬌臓(ひ弱な臓器)ゆえに、最も邪を受けやすい。暑邪を感受した場合、重症であれば高熱・顔面紅潮・汗が出る・激しい口渇などを生じるので、白虎湯や白虎加人参湯などの重剤を用いて清熱滌暑する必要があるが、軽症の場合は本方証のように熱邪が肺絡にあるのみであり、あるいは発汗後に余邪が残って肺絡に鬱滞する程度のものであるから、出現する症候は、暑熱の鬱蒸により、身体の熱感・軽度の口渇・頭目の昏脹などを生じるのである。
 【病機】 暑傷肺絡。
 【治法】 清熱滌暑。
 【方意】 『温病条弁』に「既に余邪と曰うは,重剤を持ちう可からざること明らかなり。ただ、芳香軽剤を以て肺絡中の余邪を清すれば足る」とあるように、本方証では暑熱を軽清宣泄する程度にとどめ、過度な薬物投与によっていたずらに正気を損傷すべきではない。それゆえ、本方では辛涼芳香の薬物の軽揚辛散作用により、肺絡中の暑熱を清解するのである。
 西瓜翠衣は甘涼清熱・生津利尿し、生津しても湿滞のおそれがなく、利尿しても正気を損傷しない。鮮金銀花・扁豆花・竹葉心の辛涼・清熱・淡滲により、西瓜翠衣の滌暑の作用を増強する。荷葉にはすかすがしい香気があり、暑熱を清するだけでなく、化湿・昇清(清陽を昇発〔のぼらせる〕)の効能がある。佐薬の絲瓜皮は、肺絡の熱邪を清する。
 以上の諸薬により、消暑解熱すれば諸症はおのずと癒える。
 【応用】
 (1)本方の薬力は穏和で軽度に清熱するので、暑熱の軽症および暑病の発汗後で余邪が残り、身体の熱感・軽度の口渇・頭目がすっきりしない・軽度の咳嗽などの症候に適応する。
 (2)暑熱傷肺により、乾燥性の咳嗽で喀痰がなく、咳嗽時に金属音のような清んだ高音を発するものにも使え、知母・麦門冬・甜杏仁・桔梗・甘草などを加味して清潤宣肺するとよい。

 エキス剤で対処するときには適量の銀翹散製剤に、かっ香正気散や滑石茯苓湯(猪苓湯)などの配合を考えれば十分に対処できると愚考している。

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2006年06月06日

夏の感冒・暑さによる食欲不振に効く「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」だが・・・

 すでに
漢方専門薬剤師による漢方薬方剤漫遊記 :藿香正気散(かっこうしょうきさん)で書いているが、梅雨から夏にかけて増えるのが、暑さによる食欲不振やクーラー病というか、暑さに負けて身体を冷やしすぎて誘発する夏風邪である。

 こんなときに重宝するのが、この藿香正気散であるが、夏に限らず胃腸型感冒には無くてはならない漢方処方である。
 胃腸型感冒や、生冷物の過飲過食によって起こる吐き下しには、かなり即効的な効果を発揮する。
 
 しかしながら、咽喉腫痛を伴う場合は、多くの場合、銀翹散製剤を併用する必要があるなど、様々なバリエーションがあるので、必ず専門家と相談して使用すべきである。

 この方剤は胃腸に良く効き、食欲増進としても働くが、調子に乗って長く連用すると、粘膜を乾燥させすぎる場合もあり得るので、あまり長期に使用する方剤ではない。

 体内の強力な乾燥剤というイメージがあるが、単独使用ではバランスが悪いこともあるので、一定の弁証論治に基づいて私用すべきである。

 胃や肺が冷え込んでくしゃみ・鼻水を連発するとき、あるいは花粉症の場合などでも、肺寒停飲に適応する小青竜湯を使用しなくとも、多くの場合、藿香正気散で止めることが出来る。但し、対症療法である。小青竜湯が効く場合でも、対症療法であるから、胃弱な人にはまず前者を使って対症療法をしたほうが安心である。

 但し、小青竜湯のように喘息や咳嗽には効かない。あくまで無色透明な鼻水・クシャミに効果を発揮するが、あまり連用すると、乾燥しすぎる場合があることは既に述べたとおりである。

 いずれにしても、あまり素人療法はしないほうがよい。専門家に相談しながら使用すると、止めるタイミングや、もしも効かなかった場合の次の手段を直ぐに判断してもらえるはずである。

 やや専門的な参考文献:藿香正気散
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2006年06月04日

温病学の名著《温熱経緯》について

 いつも馬鹿の一つ覚えのように書いてきた呉鞠通著『温病条弁』ばかりでなく、他にも重要な温病関連の書籍は多いのであった。

 《温熱経緯》は、一八〇八年に生まれ一八六七年に没した王士雄(字は孟英)が、一八五二年に編集・著述したもので、内経や傷寒論中の温病に関連した条文を経とし、葉天士(外感温熱篇)・陳平伯(外感温病篇)・薛生白(湿熱病篇)など諸家の説を緯とし、歴代の医家の見解を引用して、温病の病因病機・症候・診断・治療原則などを解明したばかりでなく、王孟英自身の臨床経験に基づき、温病を新感と伏気の二つの分類を前提とした弁証論治を提唱した。
 また、用薬上の原理や原則も検討しており、温病学説における系統的な総括を行ったものとしては歴史的に最初の著作であり、後学にとって大変重宝なものである。
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